近視について

Nearsighte

(日本小児眼科学会・日本弱視斜視学会・日本近視学会・日本視能訓練士協会)

病気について

近視とは

眼球は、カメラのような構造をしています。目に入ってきた光線が、角膜(黒目)や水晶体(レンズ)を通して、網膜(目の奥で光刺激を受け取る神経組織、カメラのフィルムに相当)で焦点を結び、その情報が視神経を通って脳へ伝わることにより、物体が認識されます。近視とは、眼軸長(眼球の前後方向の長さ)と角膜や水晶体の屈折力(光を集める力)のバランスが良くないために、遠方からきた光線が網膜の手前で焦点を結んでしまう状態です。近くの物体を見るときにはピントが合いますが、遠くの物体はピントが合わずぼやけて見えるようになります。近視が強い人は、物を近づけてみることになります。

近視の多くは学童期に眼軸長が過度に伸びることによる軸性近視で、眼鏡によって正常視力まで矯正可能な単純近視が多いですが、まれに病的近視に進行する例もあります。

近視の程度は、屈折度の単位であるジオプトリー(D)を用いて、弱度近視は-3.00D以下、-3.00Dを超えて-6.00以下は中等度近視、-6.00Dを超えると強度近視と分類されています。

近視発生に関わる要因

近視の発症には、遺伝的要因(生まれつきの素質)と環境要因の両方が関与すると考えられています。アジア人には近視が多く、両親とも近視でない子どもに比べて、片親が近視の場合は2倍、両親が近視の場合には約5倍の確率で子どもも近視になりやすいと言われています。近年では近視に関連する遺伝子の解析も行われています。環境要因としては、近業(近くを長時間見ること)や屋外活動が少ないことの関与が示されています。日本だけでなくアジアの国々や米国でも小・中学生の近視が増えており、スマートフォン、ゲーム機などの普及が関係しているのではないかと言われていますが、はっきりした関係は不明です。

病的近視とは

眼軸が長く、眼球の後方部分が変形して目の奥の網膜・脈絡膜(網膜を栄養する組織)や視神経に様々な病的変化を生じ、眼鏡などで近視を矯正しても正常な視力がでない状態となるものを、病的近視と言います。病的近視の目安は、5歳以下では-4.00Dを超える、6~8歳では-6.00Dを超える、9歳以上では-8.00Dを超える近視とされていますが、眼球の変形により病的近視を定義しようとする試みが進んでいます。成人の高度視力障害の原因として日本では4番目に多い疾患であり、さまざまな予防や治療の研究が進められています。

先天近視と眼疾患

元来、乳幼児期には目は軽度の遠視であり、眼球の成長に応じて正視となり、学童期以降に近視が進行するのが一般的ですが、まれに幼少期からの強い近視(先天近視)がみられます。

先天近視は様々な先天眼疾患や全身疾患に伴うことも多く、早期に発見して他に異常がないか十分な検査を行う必要があります。代表的な疾患としてステイックラー症候群、マルファン症候群、家族性滲出性硝子体網膜症、早発型緑内障、先天停止性夜盲、網膜有髄神経線維などが挙げられます。

また、未熟児では、角膜や水晶体の発育不全によって近視になりやすいと言われています。

検査と治療について

真の近視と見かけ上の近視

真の近視ではなく、一過性に近視のように見える状態になることがあります。これは、水晶体の厚みを調節する毛様体筋が過度に緊張した状態で、水晶体が厚くなって網膜より前に焦点を結ぶので、偽(いわゆる仮性)近視とも呼ばれます。神経の病気、薬物、外斜視、長い時間近くの物を見続けた後などにみられます。

検査

毛様体筋の過緊張がある偽近視か、真の近視か、真の近視であれば程度はどの位かを詳しく調べるには、毛様体筋の働きを一時的に休止する目薬を使うなど、遠近の調節をなくして、屈折度を調べる必要があります。この目薬を入れると、しばらくの間(1~2日)はピントが合わなくなり、瞳が大きい状態が続くため眩しくなりますが、矯正する眼鏡の度数を決めるためにも大切な検査です。

治療

近視には遺伝的要因と環境的要因の両方が関係しています。眼球の成長は16歳頃まで続き、近視の進行を止めることは困難です。黒板の字が見えにくくなったら、眼鏡で矯正する必要があります。眼科医で精密検査を受けて、適切な眼鏡の処方を受けることが勧められます。

コンタクトレンズは管理が難しいのと、管理を誤ると目の病気の原因になることから、中学生から高校生などある程度の年齢に達して自己管理ができるようになってから使うのが安全です。コンタクトレンズは、高度管理医療機器に指定されており、処方やコンタクトレンズによる目の障害を避けるために眼科での定期検査が大切です。

近視の進行を抑える効果があると考えられているのは“明るい屋外で活動をすること”です。また読書など近くを見るときには正しい姿勢で30cm以上距離をとることが大切です。ゲーム機やパソコン、スマートフォンの長時間の使用が近視の進行に影響するかどうか、明確なエビデンス(証拠)はありません。しかし、近業(近くを見ること)が近視進行に関与している可能性を考慮すれば、過度に使用することは慎んだ方が良いでしょう。

現在、近視の進行を抑える特殊な眼鏡やコンタクトレンズ、目薬の研究が進んできていますが近視予防治療としてお勧めできる方法は未だ確立されていません。まず日常生活に十分注意し、使用している眼鏡が合っているかどうか、半年に1回は眼科で定期検査を受けるとよいでしょう。

定期的な検査の必要性

学童期に近視が進行しても、ほとんどのお子さんは失明原因となる病的近視に至ることはありません。最近の研究では、病的近視にまで至る患者さんは、学童期に特別な眼底所見があることが分かっており、学童近視と病的近視は異なる疾患である可能性が示唆されています。しかし念のため、強い近視のあるお子さんは、専門の施設で定期的な眼底の検査を受けることをお勧めします。

また、強度近視では、成人になると、視野(物の見える範囲)が狭くなって見にくくなる緑内障や、黄斑変性症(網膜の中心部が傷んで物がゆがんで見えたり視力が下がったりする)、網膜剥離などを起こして視力が極端に低下する危険が高まりますので、定期的な眼底の検査が必要になります。

近視の進行予防の研究

現在、近視の進行を抑えるための様々な研究が進められています。代表的な方法を説明します。

(1) 眼鏡による予防

累進屈折力レンズ眼鏡(レンズ中心から下方に向かうにつれて連続的に度数を変化させたレンズで、通常老眼の方が使っています)によって近くを見るときの調節を軽減させ、網膜の中心部における焦点ボケを防ぐことで眼軸の延長を抑制する方法や、特殊な非球面レンズ眼鏡により周辺部網膜の焦点ボケを軽減することで眼軸の延長を抑制する方法について、国内外で多くの研究が行われました。学童期において累進屈折力レンズ眼鏡は、近視の進行を抑制(通常の眼鏡やコンタクトレンズ比で平均10〜20%の抑制効果)することが判りましたが、抑制効果が小さいため、一般の診療では推奨されていません。非球面レンズ眼鏡については、わが国で多施設共同研究が行われましたが、効果を証明する結果は得られませんでした。

(2) ソフトコンタクトレンズによる予防

多焦点ソフトコンタクトレンズによって周辺部網膜の焦点ボケを軽減することで、眼軸の延長を抑え、近視の進行が抑制されることが複数の報告で示されていますが、未だ有効性を裏付ける十分な科学的証拠(エビデンス)は得られていません。

(3) オルソケラトロジーによる予防

カーブの弱いハードコンタクトレンズを睡眠時に装着して角膜の形状を変える方法で、眼軸の延長が抑制される(通常の眼鏡やコンタクトレンズ比で平均30~60%の抑制効果)ことが多くの研究により示されています。しかし、未だ有効性を裏付ける十分な科学的証拠は得られていません。また適切な処方や管理を怠ると重篤な合併症を起こすこともあります。ガイドラインを遵守して使用することとなっています。

(4) 低濃度アトロピン点眼による予防

アトロピン点眼は、毛様体筋の調節を麻痺させて、瞳を大きく広げる効果がある目薬で、小児の斜視や弱視の診断や治療に頻繁に使われているものです。アトロピン点眼には近視進行を抑制する強力な効果があることが判っています。しかし1%アトロピン点眼(通常の濃度)は、副作用として強い眩しさや近くを見たときぼやけて見えるため、長期に使用することは困難でした。

シンガポールの研究で、濃度を希釈した0.01%アトロピン点眼を1日1回2年間使用したところ、近視進行が抑制され、その効果は点眼を行わない場合に比べて平均50%の抑制、さらに点眼を中止した後も効果が持続することが示されました。低濃度アトロピン点眼は副作用が少なく使いやすい目薬ですが、人によって効果が異なります。現在、日本でも研究が進められており、その効果や使用方法が明確になれば、一般の診療でも用いられる可能性があります。

以上のように、いくつかの予防的治療法が検討されています。その他にもいろいろな試みや動物実験での仮説が提案されていますが、いずれも臨床でのエビデンスはありません。いずれの方法でも、その効果と安全性については、今後さらに長期的かつ大規模な臨床研究を行って確認する必要があります。

【参考文献】

1. 所 敬、大野京子.近視:基礎と臨床.金原出版、2012年 2. 所 敬.屈折異常とその矯正.第6版.金原出版、2014年 3. 学童の近視予防アップデート.稗田 牧、木下 茂 編、あたらしい眼科 33 (10)、2016年 4. こどもの近視進行予防.不二門 尚 編、眼科グラフィック 5 (2)、2016年

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